元カレお百度参り

会社に元彼が転職してきた系女子

道端の蝉を見捨てなくなった話

転職してきた元彼がムカつく話を書こうと思ったのに、「それって仕事できない年上の同僚の愚痴と同じじゃね?」みたいなことしかないので、蝉の話をしようと思う。夏だし。

父方の祖父が亡くなった。
告知されてから一ヶ月ほど、実家で父が看ていたのだけど、そろそろ意識がなくなってきたと木曜の朝連絡が来た。とはいえお前は仕事だろ、いいから。というので普通に仕事をし、直属の上司にのみ忌引の可能性と業務の引き継ぎをしてから実家に向かった。
親戚付き合いが希薄な一族なので、私がそれなりに思い出のもった人が亡くなるのは初めてだ。

私の祖父はなかなかの曲者で、尋常ではないケチなのに浪費家、競馬狂いの傾向もあるわ会社もひとつ潰すわでいわゆる「いいおじいちゃん」っぽい人ではない。ただ、子供は好きだったようで孫はとても可愛がった。
中学生の頃、おじいちゃん宛のDMを誤って開けて、それが「必ず競馬に当たる方法があります!」といううさんくさいDMだったこともある。今ならゴミ箱直行だが潔癖な中学生にはなかなかのインパクトである。
香ばしいエピソードは書ききれないのでここまでにしておく。

一番覚えているのは小学生の夏に言われた言葉だ。

「いいかい、○○ちゃんの一番好きなものを見つけなさい。それが結局は一番向いている職業なのだから」

これで画家とかになっていたらすごい美談なのだけども、ITの企画営業という非常に微妙な職業に就いてしまった。何が好きだと企画営業に向いているのかよくわからない。
とはいえ、私がIT系を受けたのはWebデザイナーの父の勧めで、父がデザイナーになったのは祖父もデザイン系の仕事だったからで……と考えると、世の中よく出来ているなーと思う。

私の好きなもの。マンガ、ゲーム、洋服、メイク、Perfumeポルノグラフィティ、KANA-BOONとか邦楽色々、綾野剛、昨日テレビでやってたやり投げ日本代表の人、お風呂、オムライス、生肉、レバ刺し、イカのお刺身、ミートソース、生姜焼き、鳥の唐揚げ、しば漬け、すじこ、たらこ、生ハム、冷麺、焼肉、ミノ、ほろよいラムネ味、食い物ばっかか。多国籍居酒屋経営とかはできそうにない。

蝉はここから出てくるので蝉フェチの人はどうか安心してください。

私は都会の外れ育ちなので、蝉といえば公園に力尽きてる蝉か、ベランダに力尽きてる蝉か、道端に力尽きてる蝉しか見たことがない。都会の蝉は力尽きないと目につかないのだ。

小学生の頃、担任の先生に「道端に落ちてる蝉の死体とか猫の死体とかゲロとかはそのへんに住んでるだれかが片付けてるんだぞ。風化したりとかするのはものすごい時間かかるんだからそんなの待ってたら街中死体だらけだぞ」と言った。
だから教室のゴミを片付けろ、みたいな文脈だったと思うんだけど、その時は「そんな偽善者みたいな大人がいるんだな、きっとうちのゴミ袋漁って燃えないゴミ入ってたら突っかえすおばさんなんだろう」としか思わなかった。大人になってもしばらく思ってた。

ところが昨日、納涼船へ出掛けようとするとマンションの通路に蝉が落ちてきた。ジジジ、ジジジ、とあの独特の鳴き声で蠢いていて、あぁ死ぬんだな、と思いながら足早に通り過ぎて納涼船に向かった。5分後には蝉のことを忘れてたと思う。

納涼船から帰ってくると、もちろんもう亡くなった蝉が通路にまだ落ちていた。

もちろん何人か人は通ったはずだし、住居のドアのちょっと前に落ちているんだからそこの住人も気づいたはず。1DKのマンションで、単身者の集まりだから共用部分に興味が無いのは当たり前だ。5分後、私はティッシュ数枚を持って蝉を拾い上げた。

私が蝉を拾い上げたことで、おじいちゃんが苦しまずに逝けるとか天国から天使が迎えに来るとか思ったわけじゃない。ただ、どうにも説明できないけれど蝉を放置できなかった。
思えば、電車で席を譲るとか、道に迷ってるっぽい老人や子供に声をかけるとか、20歳前後の時に恥ずかしくてできなかったことはいつの間にかできるようになっていた。

明日のお葬式には手紙と絵を持っていく。小学生の頃におじいちゃんに見せた絵の方が上手いだなんて滑稽だなと思った。f:id:riiiiou22:20160814150307j:plain